[ 聞き手の心をつかむ ]◎人生のあらゆるときに役立つ最強の伝える技術があります。
それを、「レトリック」と呼びます。
アリストテレスの時代から2000年にわたって世界のリーダーが使ってきた技術です。
<例1.:オバマ大統領>2004年7月27日、ひとりの男が、
まさに歴史の流れを変えるようなスピーチをしました。
「バラク、誰だって?」聞き慣れない名前の候補者が民主党の党大会基調講演者として
演壇に上がったとき、誰もがこう言いました。
彼が聴衆に向かって手を振っているあいだ、テレビのレポーターたちは
カンニング・ペーパーを使って、オバマのプロフィールを読みあげました。
比較的無名のスピーチが大統領の座へとつながりましたのは、18 6.0年以来のことです。
このときは、イリノイ州出身のエイブラハム・リンカーンという田舎弁護士が、
有名なクーパー・ユニオン演説で、ニューヨークのエリートぞろいの聴衆を魅了しました。
リンカーンの聴衆は比較的数が少なかったものの当初、
「この男に大統領にふさわしい知識と経験があるのか?」と誰もがいぶかしんでいました。
リンカーンには、そのような聴衆を説得する必要がありました。
オバマも、自分が政界のロック・スターであることを証明しなければならなかったのです。
そして両者とも、見事に成功しました。
スピーチのおかげでオバマの著書『マイ・ドリーム』は瞬く間にベストセラーとなり、
オバマの信奉者が生まれました。
彼は一夜にして、政界の新星から大統領候補者になりました。
次に彼が党大会でスピーチを行ったのは2008年、民主党の指名を受諾したときです。
ここでは、オバマがどうやって何百万人もの人を魅了したのか、
そしてどうやって自分をリーダーとしてふさわしい人物に見せたのかを見てみます。
オバマはなぜ聴衆の心をとらえたのでしょうか?
それは、自分のスピーチを説得力のある伝統的な方法で組み立てているのです。
1.序論(聴衆の関心と好意を得る)
党大会のスピーチの冒頭で、
まず自分の特質や人柄を設定しました。
「私がこのステージに立っているなんて、とても信じがたいことです。」と、
謙虚な姿勢をみせる素晴らしい作戦で、このあとの陳述にスムーズに移行できる出だしです。
2.陳述(事実や数字を挙げる)彼はまず自分の両親の話を語ります
酪農を営んでいた父はアメリカに留学し、母は父の故郷から見ると
“地球の反対側“にあるカンザス州で生まれ育ちましたと、
自分の存在こそアメリカ的であると述べています。
「今ここにいる私は、自分の人生がアメリカという大きな物語の一部であることを知っています。」
述べました。
さらに、「国民のささやかな夢に誠実であること、それこそが、アメリカの真の特質なのです。」
と加えました。
3.提議(両方の意見を取り上げる)優れた演説者は、提議の段階で両方の意見を取り上げます。
自分の意見を熱のこもった言葉で伝えるのです。
相手の意見を、あからさまに非難するのは良くありません。
逆に、相手の間違った考えに落胆していると聞こえるように話したほうが、はるかに良いのです。
「今夜、私はあなた方に言いたい。
私たちにはやらなければならない仕事がたくさんあるということを」と。
そして、「ブッシュとチェイニーが率いていた4年間のあとなので、
やらなければならない仕事がたくさんある。」と述べました。
提議の部分で「自分たちのほうがはるかに理性的だ」と示して、自分こそが適任だ、と暗示しました。
4.立証(議論のポイントを述べる)やらなければならない仕事がたくさんある、
ということを裏付けるために、オバマは伝統的な手法を使いました。
事象を羅列するという方法です。
海外に流出した仕事、アメリカを身動きのとれない状態にしている石油会社、
安全という名のもとで犠牲にされる自由、“私たちを区分けするくさび“として使われてしまう信念、
そして泥沼の戦争について述べました。
5.反論(相手を論破する)ここでオバマは、直接的に共和党を非難するのではなく、
アメリカを分断しようとしている“情報操作屋や中傷専門の広告屋“を非難しました。
そのあとで、このスピーチの一番の聞かせどころである一文を語ります。
ここまで彼は、声を一定に保ち、理性的で早口で歯切れのいい口調で話してきましたが。
それがこの部分に差し掛かりますと、大きな声で、演壇を叩かんばかりの勢いでこう言いました。
「今夜、私は彼らに言いたい。
リベラルのアメリカでもなければ保守のアメリカでもない。
“アメリカ合衆国“なのだと!」この一文は、世界中のメディアで取り上げられることになりました。
6.結論(ポイントをもう一度)素晴らしいスピーチの締めくくりには、
内容の要約と聴衆に行動を呼びかけることのふたつの役割があります。
「結局のところ、これこそが選挙の目的なのです。
皮肉に満ちた政治と、希望に満ちた政治、あなたならどちらに参加したいでしょうか?」
オバマは「そして」という言葉を多用して、喝采の波にのっていきます。
彼は幸せな未来を語ることで、聴衆を行動へと駆り立てます。
「そしてジョン・ケリーは大統領に、さらにジョン・エドワーズは副大統領に就任することでしょう。
そしてこの国は希望を取り戻し、長く続いた政治の暗闇から・・・」と、
ひとこと言うたびに聴衆が歓声を上げます。
歓声は次第に大きくなってホール全体に広がり、オバマの声が聞こえないほどになります。
最後には彼が「ありがとうございました。
皆さまに神の祝福がありますように。」というのを、
口の動きから読み取らなければならなかった。
<例 2.トランプ大統領>
トランプは原稿をおとなしく読むような人ではありません。
彼はコメディアンや古い時代の説教者のやり方を踏襲しています。
すなわち、即興で話をする人です。
トランプのマジックはスピーチの長さにあるのではなく、
ちょっとしたキャッチフレーズを詰め込むところにあります。
彼はコメディアンのように短い文を畳みかけるように使ってパンチラインまでいき、
そこで繰り返しやお気に入りのフレーズ(「私を信じてください」)を使って
そのパンチラインを強調する手法です。
短い文のひとつひとつは、前の文と同じ話題や論理のこともあれば、まったく違うときもあります。
優れたコメディアンの話が、乾燥機のなかで消えた靴下の謎から
オペラみたいないびきをかく妻への文句へがらりと変わるのと同じように、
トランプが選挙運動中にしたスピーチは、聴衆の規模の話から嘘つきのメディア、
移民問題まで、たいていは非合理的に変わっていきました。
一見、馬鹿げているようにも見えますが、これは昔から存在するテクニックなのです。
あるとき彼のスピーチ中、短い文を重ねる部分の時間の計測者がいました。
どれもだいたい12秒であることがわかりました。
ユーチューブの他のスピーチ動画でも、ほぼ12秒で、13秒以上になることや
11秒を下回ることはめったにありません。
なぜ12秒なのでしょう? それは、深く息を吸ったあとに、
人間が息を吐き続けられる時間がだいたい12秒だからです。
みなさんもぜひ試してみて下さい。
深く息を吸って、息が切れるまで1ページを大きな声で読んでみるとわかります。
古代人は、人間が脳で何かを認識するまでにかかるのが、ちょうどそのタイミングだと信じていました。
考えをうまく表現するのにも、同じくらいの時間がかかる、と。
聴衆がその考えを吸収するまでの時間は?スピーチの中で、
演説者が一息で話すのと同じくらいの時間がかかるのです。
偉大な演説者は例外なく、結論あるいは感情面でのクライマックスといえる箇所で、
この短い文を重ねていく技法を使っています。
<まとめ>
バラク・オバマも2004年民主党の党大会でのスピーチにこれをつかっています。
リベラルなアメリカでも、保守的なアメリカでもなく、“アメリカ合衆国“なのです。
黒人のアメリカでも、白人のアメリカでも、ラテン人のアメリカでも、
アジア人のアメリカでもなく、“アメリカ合衆国“なのです。
オバマは聴衆をうならせた。
一方トランプは、これをちょっと違ったやり方でやっています。
彼はコメディアンがギャグを言うように、短い文を重ねていき、
12秒でわかる考えを風船のようにひとつずつ聴衆に投げるようなやり方をしています。
これは特にソーシャル・メディアに適した方法です。
それは、ソーシャル・メディアを見る人の注意力が12秒より長く続くことはほとんどないからです。
また、12秒ごとに観客に歓声をあげさせることで、観客の「自分も参加している」
という気分を掻き立てる効果があるのです。
アリストテレスは、政治的なスピーチでは審議のレトリック
(未来形を使い、何が聴衆にとっての利益となるのかを訴え、選択を促す)を
使うべきだと語りました。
ですが、人々の心をひとつにするためのスピーチには、
価値観にかかわる演示のレトリックを使うと良いのです。
演示のレトリックをよく知っていれば、スピーチを聞くときに何に気をつければ良いのか、
何を批判すれば良いのかがわかるだけでなく、あなたももっと雄弁になることができるのです。
上記のことからも実質、私たちは学ぶものは多いのです。
レトリックは今日でも効果的です。
雄弁家になりえるのです。
コメントを残す