[ 感情研究 ]
◎本当の感情は、一瞬の表情に表れる!
人の本当の感情は、15 分の 1 秒にも満たない一瞬の表情に表れてますが、
80〜90%の人は、この微細な表情に気づかずに、相手の気持 ちを読み取れずにいるのです。
感情とは、ヒトなどの動物がものご とや対象に対して抱く気持ちのこと。
喜び・悲しみ・怒り・諦め・ 驚き・嫌悪・恐怖などがあります。
一般的に、反射⇒理性修正に 0.2 ~0.5 秒かかります。
0.2 秒の本音を見ているのが『空気を読む』と いう作業です。
無意識に人の表情を見ているのです。
精神医学・心 理学では感情(emotion)と気分(mood)を区別することがあり、
前 者の方がより一時的なものをさします。
しばしば天気 weather と天 候 climate に例えられます。
ですが実際は両者を区別せずに使用する場合が多い状況です。
脳科学的には、感情は大脳の表面(大脳皮
質)および脳の深部(辺縁系など)、身体の密接な相互作用で成り立っています。
また感情と思考や認知は、たとえその人が意識にの
ぼらせなくても密接に関係し合っています。
一般にヒトは感情を抱きますが、ヒト以外の哺乳類も、大脳辺縁系の構造はヒトと
類似していること、辺縁系各部位に対する電気刺激や神経作用物質の投与により、
不安・恐怖・怒りなどヒトの情動反応に類似した反応をみせることが古くから知られ、
これらの動物にも感情(情動)があると推測されることも多いのです。
ただし、比較認知科学的には研究が始まったばかりで、
あくまでも刺激と行動の相関関係が観測され ているだけにすぎない、とする主張される専門家もいらっしゃいま す。
それは生活文化においては、単に「情」と略する事があります。
他人の感情を深くくみ取り(感受性が高い)、場合によってはそれ に伴った感情を態度(涙を流すなど)や
行動に表すほどに心が豊か な事を「情に厚い」という表現となります。
「情に厚い江戸っ子気 質」などの語句に使われて、江戸っ子のいきの一つともされており ます。
≪感情の生物学≫
生物学的には感情は大きく四つの要因に分ける事ができます。
(1) 感情を引き起こす脳科学的メカニズム
(2)感情の社会的メカニズム
(3)個人の感情を形作る感情の個体発達
(4)種に普遍的な感情を 形作った進化的機能です。
前二者は至近要因、後二者は究極要因と 呼ばれます。
<至近要因>
生理学的には、感情には身体感覚に関連した無意識な感情(emotion, 情動)と
意識的な感情(feeling もしくは emotional feeling)と分類されることが多く、
意識的感情(feeling)には、大脳皮質(大脳 の表面)とりわけ帯状回、前頭葉が関与しています。
無意識感情に は、皮質下(脳の中心の方)の扁桃体・視床下部・脳幹に加えて、
自律神経系・内分泌系・骨格筋などの末梢系(脳の外の組織)が関 与します。
しかし、感情も情動も皮質と帯状回のみで成立する場合 もあります。
たとえば我々が恐怖を感じるとき、同時に脈がはやく なり、口が渇き、手に汗を握るのを感じます。
恐怖を感じているの は皮質で、末梢の反応(動悸など)を起こすのは皮質下です。
しか し感情について考えるとき、両者を切り離して考えることはできないのです。
かつての専門家たちは、感情の二要因説を発展させて、
感情を体験・認識することは、刺激に対して発生した身体反応を説明するために
皮質が作るストーリーであると主張しています。
例えば、被験者にアドレナリンを注射した後で不快な環境に置いたところ、
アドレナリンの副作用を知らされていない被験者は、アドレナリンにより起こった動悸や
冷や汗などの反応を環境のせいにして不快がりましたが、副作用を知らせておいた被験者は
アドレナリンの せいだと判断して、不快さも少なかったという研究結果があります。
つまり皮質が、身体の反応を、前後の文脈と照らし合わせて解釈して
感情というストーリーを作ったということになります。
その専門 家たちは、感情 2 要因説を 1960 年代に唱えましたが、
その後 2 要因 となるような直接の証拠が得られなかったため、
仮説を修正し 1982 年に、生理的基盤(=情動)に基づいて
その後感情が形成されると いう感情の 2 段階説を唱えました。
そののち、感情を社会性も含め たより複雑なもの(罪悪感・やきもち・嫉妬・愛なども含めた)と して定義しました。
それらの感情理論では、外界からの刺激に対し て、
まず危険であるか有益であるかを皮質下および帯状回で無意識 に判断して、
次に皮質でどう行動するかを判断する、その判断に基づいて末梢の反応(交感神経の興奮・骨格筋の緊張など)が起こり、
最後に皮質にてそれを意識的な感情として認識するというこの説の 根拠となる実験的証拠は、
強い感情を惹起する視覚刺激を短時間 (30ms 以下)呈示すると、
意識上は認識できない(サブリミナル効 果)にも関わらず末梢では反応が見られるという事実です。
しかし意識に関して、どこでどのように感情意識が発生しているか、という点については、
いまだ諸説あり、詳細は不明となっております。
◎補足 1
:上記したような身体と感情の密接なつながりは、感情に関係する日常的な言葉にもよくみられます。
例えば、「胸が痛む」・ 「断腸の思い」・「血湧き肉躍る」・「手に汗握る」
・「胸をおど らせる」・「腹が立つ」・「はらわたが煮えくり返る」・「頭に血 が上る」
・「むかつく」・「苦々しい」・「鉛を呑んだような」・ 「ちむぐりさ(=肝苦しい、沖縄方言)」など。
このうちの幾つか は典型的な交感神経亢進反応で、幾つかはそれらに起因するかもし れない消化管症状です。
◎補足 2
:精神疾患の治療に用いられる認知 行動療法は、「認知の仕方を変えることによって感情を調整する」
という理論に基づいており、皮質と皮質下の相互作用を応用した好
例と言えます。
また、自律訓練法は「手が暖かい」・「気持ちがお ちついている」など、リラックスした身体状態をイメージしながら 心身の緊張をとる訓練法で、ストレス解消・心身症・神経症などの 治療に用いられます。
これも末梢の自律神経反応と感情の相互作用 を応用した一例です。
2012 年 10 月、脳神経外科の世界的権威である エベン・アレグザンダーは「死後の世界は存在する」と発言。
かつ
ては一元論者で死後の世界を否定していた人物でしたが、脳の病に 侵され入院中に臨死体験を経験して回復し退院後、
体験中の脳の状 態を徹底的に調査した結果、昏睡状態にあった 7 日間、脳の大部分は
機能を停止していたことを確認したのです。
そしてあらゆる可能 性を検討した結果、「あれは死後の世界に間違いない」と判断して、
自分の体験から「脳それ自体は意識を作り出さないのでは?」との 実体二元論の仮説を立てています。
≪個体発達≫
幼い赤ん坊でも生後数日で母親の表情に反応するようになります。
また宙に浮いた物体を見せると長く見つめるなど、何らかの感情を 持っていると考えられます。
主要な感情は 4 歳頃までには形成され ます。
<進化心理学で想定する要因>
進化心理学では、感情の仕組みは、環境に応じて素早く行動を決定するための生物学的適応で、
進化の過程で形成されたと考えられます。
進化心理学者は親族間の愛情は血縁選択によって、親子間・夫婦間の愛情と反目は親子の対立
・性的対立の要因によって進化したと考えられています。
また一部の専門家の間では、それぞれの感情が異なる選択圧によって形成され、異なる機能を持ち、
したがって異なる神経的基盤あるいはモジュールを持つと考えられています。
そのような進化生物学者とゲーム理論家は、友情・協力・裏切り・罪悪感・公平さ・道徳観などを
引き起こす動機として一部の感情が進化して、それは互恵的利他主義と間接互恵性、
一般互酬性の理論から導きだせると考えられています。
このような視点からは、感情は少なくとも部分的には生得的であり、一般認知能力からある程度
独立しており、内外の刺激に対して瞬時に自律的に発動すると考えられます。
この生物学的適応という視点は機能主義心理学にも遡ることができるのです。
≪感情の分類≫
人間にはどのような感情があるのかについては古来様々に議論され てきました。
以下に、歴史的文化的経緯・感情研究の歴史に基づく 分類を述べます。
◎六情
:一般に、6 種類の代表的な感情として、「1. 喜 2.怒 3.哀 4.楽 5.愛(いとしみ)6.憎(にくしみ)」が総称されるこ とが多い。
◎三字経
:曰喜怒・曰哀懼・愛悪欲・七情具とあり、「1. 喜 2.怒 3.哀 4.懼(おそれ)5.愛(いとしみ)6.悪(にくしみ)7.欲」の
七情が人にそなわっていると言う。
◎中国の五情(ごじょう)
:人間 の持つ代表的な感情を、「1.喜 (よろこび)2.怒 (いかり)3.哀 (か なしみ)4.楽 (たのしみ)5.怨 (うらみ)」の
五つにまとめて表す。
◎部首が「心」で感情を表す漢字
:「忌 (いむ) ・忍 (しのぶ) ・ 怒 (いかる) ・恐 (おそれる) ・恥 (はじらう) ・恋 (こい) ・悲 (か なしい)
・愁 (うれえる) ・慕 (したう) ・憂 (うれえる) ・怪 (あ やしむ) ・怖 (こわい) ・悔 (くやむ)
・恨 (うらむ) ・惜 (おし む) ・悼 (いたむ) ・愉 (たのしむ) ・憎 (にくむ) ・憤 (いきど おる) ・懐 (なつかしむ) 等々。
◎感情を表す和語
:1感情を表す形容詞および形容動詞 (例:かなし い) 、その感情をいだいている/いだく動作を表す動詞 (例:かなし む) 、
抽象化された名詞 (例:かなしみ) を示す。
2形容詞および形容動詞
(かなしい・うらがなしい・ものがなしい・みじめだ・やるせ ない・たのしい・うれしい・しあわせだ
・めでたい・いまわしい・ はずかしい・うらめしい・にくたらしい・いやだ・きらいだ・さわ やかだ
・いつくしい・いとおしい・つまらない・おそろしい・こわ い)
3動詞(このむ・よろこぶ・いかる・おこる
・かなしむ・おそれ る・はじらう・はにかむ・うれえる・あやしむ・うらむ・にくむ・
いきどおる・むかつく・きらう・けぎらいする・めでる・うんざり する・あきる・びびる)
4名詞(よろこび・かなしみ・いかり・うら み)◎インドの伝統的な美学理論:ナヴァ
・ラサ (人間の 9 つの基本的感情) というものがあり、それは、
「1.シュリンガーラ (恋愛感 情;恋する気持ち、愛する気持ち)
2.ハースヤ (滑稽な笑い)
3.カル ナ (悲しみ)
4.ラウドラ (怒り)
5.ヴィーラ (勇ましい気持ち、活力 あふれる気持ち)
6.バヤーナカ (恐れ)
7.ビーバッサ (嫌悪)
8 アドブ タ (驚き・驚愕
9.シャーンタ (平和)」の 9 つであるとされる。
◎ チャールズ・ダーウィン
:「悲しみ・幸福・怒り・軽蔑・嫌悪・恐 怖・驚き」という七つの基本的感情が、文化によって異ならず、
普 遍的に同じ方法で表現されると考えていた。
また子供の成長やオラ ンウータンの感情表現の観察を通して、人間と他の霊長類の類似性を見いだした。
◎心理学的な感情の分類(表情認知からみた感情の分 類)
:ポール・エクマンは次の 6 つの感情は生物学的基盤を持ち、ヒ ューマン・ユニバーサルズであると結論した。
「幸福感・驚き・恐 れ・悲しみ・怒り・嫌悪」そしてエクマンは 1990 年代にこのリスト を拡張し、以下を加えた。
「楽しさ・軽蔑・満足・困惑・興奮・罪 の意識・功績に基づく自負心・安心・満足感・喜び・罪悪感。
≪感情が冒される疾患や状態≫
感情・気分が冒される疾患の代表的なものは気分障害(うつ病・躁うつ病・躁病など)です。
うつ病では抑うつ気分(落ち込んだ・疲
れた・元気のない・悲しい・泣きたいような・嫌になる、・死にた い・絶望的)を呈しますが、
躁状態では気分が爽快になり、元気で、 活気にあふれている・自信満々・動き回りたいなどの気分を呈しま す。
重症化で攻撃的な気分・怒りが前面に出てきます。
しかし抑う つ気分を呈する疾患はうつ病だけではなく統合失調症・摂食障害・ パーソナリティ障害など
様々な疾患に合併することがあるのです。
また、精神疾患に限らず、健康な人でも一時的に抑うつ的になるこ とはよくあるものです。
症状例
:1大脳辺縁系の一部をなす扁桃体 やその周辺が破壊されると、Kluver-Bucy 症候群と呼ばれる、性行動
異常・情動異常(サルの場合、ヘビを見ても全く怖がらず触ろうと する)・口唇傾向などを特徴とする状態になる。
2アレキシサイミ ア(alexithymia)は、精神医学の用語で、自らの感情を自覚・認知 したり表現したりすることが不得意で、
空想力・想像力に欠ける傾 向のことをさす。
この傾向を持つ人は心身症になりやすいといわれている。
つまり自らの感情を認識することが苦手なため、身体の症状として現れてしまうという。
≪感情に作用する薬物≫
抗うつ薬:抗うつ薬はうつ病・うつ状態の治療薬で、落ち込んだ気 分・意欲低下などを改善します。
セロトニン系・ノルアドレナリン 系・ドーパミン系神経を賦活することで効果を発現します。
抗うつ 薬によってその 3 系統の神経系への働きの強さが異なり、薬剤ごと に薬効が異なります。
1抗不安薬は、ベンゾジアゼピン受容体に働 くことで、不安を取り除く作用がある。
2違法な薬物である覚醒剤 は、脳のドーパミン系を強く興奮させることで快の気分を発現する。
しかし同時にドーパミン系神経の異常を来たし、様々な副作用・後 遺症を来たす。
その他にも、アルコール、ステロイドなど様々な薬物が感情に作用する。
≪感情を分析する医療用工学技術≫
1 情動:感性制御技術の分野における、韻律からの感情認識がある。
医療用工学技術としては、情動は興奮において 90%以上の認識精度を 持つが、感情は個人の認知ラベルの影響差があり、
そこまでの精度 は保障されない。
2感情認識:独立行政法人・情報通信研究機構と株式会社 AGI の共同研究において、
fMRI 用に使用可能な感情認識は 音声からの感性制御技術 ST がある。
しかし、音声が出ない状況では 使用できない。
その他にも、徳島大学などでは、表情からの感情認 識の研究がされている。
≪まとめ≫
感情は表情や仕草となってあらわれます。
表情は非言語コミュニケーションの一部です。
表情は自律的に働き、訓練しないと意識的にコントロールできないものです。
また、どの文化でも基本的な表情は共通しています。
進化的な視点からは、コミュニケーション信号は他個体を操作するために自由にコントロールできる方が
有利であると考えられますが、そうなっていません。
一部の生物学者は、正直に自分の感情を伝えることがもっとも利益を得られるからだと考え、
ハンディキャップ信号の一種ではないかと主張されてます。
総 じて笑顔は、明らかに仕事の場でも暮らしの場でも有意義に働きます。
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