285[ しなやかなリーダーシップ ]◎リーダーに大切にしてほしい3つのこと。

[ しなやかなリーダーシップ ]◎リーダーに大切にしてほしい3つのこと。

 幼い頃に憧れた漫画やTVアニメのヒーローたちは、大人世代となった私たちに、

大切なことを教えてくれていました。

 人の上にたつ「上司」になった今だから、あの名セリフ、名シーンの凄さが

深く理解できるようになったのです。

 たくさんのファンを持ちます、「機動戦士ガンダム」に登場するキャラクターの行動から、

リーダーに大切にしてほしい3つのことをご紹介させて頂きます。

 ・・・「シャア・アズナブル」の言動から解説します。

  <戦いにあって、なぜシャアはクールでいられるのか?>

「機動戦士ガンダム」はアムロ・レイが主人公ですが、

もうひとりの主役として”赤い彗星”の異名をもつシャア・アズナブルの名があげられます。

 「冷静沈着な行動」・「謎めいた生い立ち」・「敵の裏をかく攻撃手法」など、

その行動特性と仮面の下のイケメンぶりで、シャアは男女問わず圧倒的な人気です。

 幼い頃は、「かっこいい!」という単純な理由からシャアに憧れることが大多数です。

 しかし、彼は作中では指揮官であり、そのリーダーシップ・スタイルをつぶさに観察しますと、

ビジネス・リーダーになる世代となった私たちに多くのことを教えてくれるヒーローとして、

今なお、憧れの存在といえるのです。

 シャアの人間性を一言で表現するなら「クール」です。

「クール」は、「冷静」はもちろん、「クール・ジャパン」という言葉がある通り、

「イケてる」・「かっこいい」・「凛々しい」をも意味します。

シャアは、部下を前にして常に冷静であり、「イケてる男」・「凛々しいリーダー」として

私たちを魅了します。

 
”戦いとはいつも2手3手先を考えて行うものだ”(第2話『ガンダム破壊命令』)

神出鬼没な戦略・戦術でホワイトベースのクルーたちを苦しめた、彼の有名なセリフです。

 このセリフから、彼が優れた「大局観」をもっていたことがわかります。

地理的・時間的により大きな尺度をもって先を読み、

目の前で展開する現実の出来事に処していくのは、リーダーに必要な資質です。

 初手の失敗を想定して、次の一手を常に考えておく。

 これは戦いの原理原則であり、クールさを維持するコツです。

 「悲観的に戦略をたて、楽観的に行動せよ」といいます。

 先のコトを考え、例え失敗があっても次の手があれば、私たちは失敗に遭遇した時に、

冷静でいられます。

 シャアのクールさは、彼が常に「先読み」をして、現実を想定内にすることで可能だったといえます。

「先読みのシャア」の真骨頂は、第5話で繰り広げられた「大気圏突入戦」です。

ホワイトベースは、宇宙から地球連邦軍の本部基地「ジャブロー」に向かうために、大気圏に突入。

この直前にシャアは攻撃をしかけます。

戦闘時間は数分。

 常識にとらわれないシャアらしい奇襲です。

 この戦闘で、ホワイトベースを取り逃がすものの、シャアは地球への進入角度をずらし、

ジオン公国軍が制圧する北米エリアへとホワイトベースを誘導することに成功します。

 副官のドレンが2段構えの作戦であったことに気づき、それを指摘するとシャアはいいます。

 “戦いは非情さ、そのくらいのことは考えている”(第5話『大気圏突入』)シャアにとって

「先読み」とは「そのくらいのこと」なのです。

 私たちは、彼の性格が「先天的にクールである」というより、

「大局観をもって入念に練られた作戦を準備する」という「基本」を守っているからこそ、

そのクールさが成立している点に着目すべきでしょう。

「段取り八分」・「最も準備する者に幸運の女神は微笑む」など、

準備の大切さを諭す言葉は多くあります。

準備は仕事の「基本」です。

 シャアが作戦の失敗を悔いる部下に、”構うな。 全員脱出する。

作戦が失敗となればただちに撤退だ、いいな?”(第30話『小さな防衛戦』)と諭す場面があります。

 「撤退を決断したら迷わず逃げる」が戦いの「基本」です。

 シャアは「神出鬼没」といわれながら、「基本に忠実」な指揮官だった点も、

彼のクールさの秘訣であり、見逃してはならないシャアの魅力です

<なぜシャアは上司をうまくマネジメントできたのか?>

シャアはドズル・ザビ中将が率いる宇宙攻撃軍の一部隊を率いる指揮官でした。

 シャアは少佐から大佐へ昇進します。

 軍隊組織の大将・中将などの「将官」が、企業組織の役員です。

 大佐・少佐など「佐官」は「将官」の下であり、シャアは会社でいえばミドル・マネジャー

(中間管理職)です。

 作戦の遂行や変更には上司の同意が必要であり、「報告・連絡・相談」をしながら

コトを進めていくのはビジネスと同じです。

失敗があれば報告し、名誉挽回を期して上司に援助を求める交渉は、

ミドル・マネジャーの腕のみせどころです。

 
第1話「ガンダム大地に立つ!!」でシャアは、地球連邦軍が極秘裏に開発を進めたと噂される

ホワイトベースを発見し、宇宙コロニー「サイド7」まで追尾します。

シャアは偵察を目的に、部下(ザク3機)をサイド7に潜入させます。

 ところが、功を焦った部下が攻撃してしまうのです。

 偶然その場にいたアムロがガンダムを操縦し、2機のザクを撃破。

シャアの部隊は大きな損害を被ります。

 指揮官にとって手痛い失敗です。

シャアは補給を受けるため、通信回線を開き上官のドズル・ザビと交渉します。

 実はその前日、ドズルはシャアが遂行した掃討作戦の終了を祝って晩餐会を開く予定でした。

シャアはホワイトベースを追尾して出席せず、ドズルは腹をたてています。

 シャアは恐らくドズルの立腹を予想していたでしょう。

 回線がつながるとドズルは怒りを露わにします。

 “ゆうべはな、貴様の作戦終了を祝うつもりでおった。

 貴様がもたもたしてくれたおかげで晩餐の支度はすべて無駄になったんだ!”。

 すると、シャアはこう応じます。

 “連邦軍のV作戦をキャッチしたのです、ドズル中将”(第2話『ガンダム破壊命令』)

この後、数回のやりとりがあり、シャアが”帰還途中でありましたので、

ミサイル、弾薬がすべて底をつき”というと、ドズルは、”補給が欲しいのだな?まわす”と、

シャアの要求を即断即決で飲みます。

 そして、”幸いであります。

 それに、ザクの補給も三機”と、シャアは自らの失敗を補給という話題にすりかえて報告。

 これもドズルが容認し、シャアは失敗について、責められもせず、弁解もせず、

自分の望み通りに上司との交渉を終えるのです。

 上司が怒っていることを知りながら失敗を報告するのは、火に油を注ぐようなものであり、

誰もが躊躇します。

ここでシャアが巧みなのは、晩餐会の欠席を謝罪もせず、”V作戦をキャッチ”というドズルにとって

興味を引く「メリット」になる話題でカウンターパンチを浴びせている点です。

ドズルは軍人である自分に高い誇りを抱くリーダーのようです。

話の優先順位として、「晩餐会」より「作戦の動向」が上です。

 シャアはドズルの性格タイプを熟知していたはずです。

 上司の心を動かすツボをおさえたシャアのしたたかな交渉術であり、

自分の上司をマネジメントする巧みな技術でした。

 メリットが大きければ、デメリット(失敗)はより小さく感じられます。

 シャアはこの心理法則を使い、「失敗の事実を上回るメリット」と「上司の性格を把握し、

優先順位の高い話題」を的確に提示することで、怒る上司に自分の要求を認めさせることに成功したのです。

 <なぜシャアは部下の「やる気の醸成・やる気の継続」がうまかったのか?>

“我々指揮官は最前線で士気を鼓舞しなければな”(第8話『戦場は荒野』)

シャアが、士官学校の同期であり仇敵であるガルマ・ザビに言ったセリフです。

 リーダーの役割は多岐に及びますが、その中で、部下の心に働きかけてやる気を高めることは、

未来永劫変わらない重要なものです。

クールなイメージの強いシャアです。

 しかしこのセリフ通り彼は、作戦前や戦闘中に部下を「やる気の醸成・やる気の継続」する

心温まる言葉を発しているのです。

 例えば、前述した大気圏突入戦の時です。

 戦闘時間は短く、ザクは大気圏では燃え尽きてしまう極めてハイリスクな作戦です。

 出撃直前、ザクのパイロットたちを前にしてシャアは、作戦の方向性や目標を伝えた後

部下の士気を鼓舞するために、最後、こういうのです。

“戦闘時間は2分とないはずだが、諸君らであればこの作戦を成し遂げられるだろう。

期待する”(第5話『大気圏突入』)ここでポイントとなる言葉は”諸君らであれば”です。

この任務を成功させるのは、他の誰でもない君たちであると、

「唯一無二性」を伝えることは、部下の心に「自己重要感」を育みます。

 仕事をするうえで「自分は必要とされる重要な存在だ」と感じられる感覚は、モチベーションの源です。

 「自己重要感」は、他人から認められることによって生まれます。

 人には「承認欲求」があり、他人から「認められたい」という思いは人をつき動かすものとして、

本能的なものです。

シャアは部下を承認する言葉を欠かさないリーダーなのです。

 大気圏突入戦の戦端が開かれ、シャアたちはホワイトべースに襲いかかります。

 シャアの部下コムが攻撃を受け、ザクの右手が使えなくなります。

 シャアが連絡をとると、コムから”ヒート・ホークは左手で使えます”と勇ましい言葉が返ってきました。

 これを受けてシャアはいいます。 “上等だ、よく切り抜けてくれた。

 私と敵のモビルスーツにあたる”(第5話『大気圏突入』)右手の被弾は失敗ともいえます。

 ネガティブ思考なリーダーですと、「何してるんだ!」と叱責したり「どうしてそうなったんだ?」と

詰問したりするでしょう。

シャアは違います。

 まず”上等だ”と失敗をポジティブに評価し、”よく切り抜けてくれた”と承認し、

それから指示命令を下しているのです。

宇宙空間でホワイトベースと正面から撃ち合いをした時もです。

射程距離に入ったホワイトベースが先に一斉射撃をしてきたのをシャアはギリギリまで待ち、

そして声を大にして命令します。

 “よし、よく我慢した。

 撃てっ”(第31話『ザンジバル、追撃!』)”上等だ、よく切り抜けてくれた”も”

よし、よく我慢した”も、口にすれば1~2秒です。

こうした部下を承認する小さな言葉を、戦場という極限状態においても

欠かさず口にしていることが、シャアの優れた点であり、

“赤い彗星”から私たちが学びたい部下のモチベーションを高めるポイントです。

 <まとめ>

「クールさを成立させる準備の大切さ」

・「上司を動かす交渉術」

・「部下のやる気を高める小さな言葉」。

 以上、3つの観点からシャアのリーダーとしての才覚に迫りました。

 この3つだけでも、リーダーという仕事の複雑さを思い知り、

上司の仕事を日々されている皆さんのご苦労が身に沁みます。

 コーチングや研修を通して、リーダーをサポートすることが私の使命です。

 そこでシャアの「生き方」から、現役リーダーの気持ちを少しでも軽くする考え方を、

以下に記します。

 シャアの本名は、キャスバル・レム・ダイクンです。

 父はジオン公国の初代首相であるジオン・ズム・ダイクン。

 父親はデギン・ソド・ザビの陰謀によって殺された。

 そう教えられシャアは育ちました。

 ザビ家が率いるジオン軍に所属していた彼の真の目的は、ザビ家の滅亡です。

 シャアは自分の素性とその真意を隠すために、名前を変え「仮面」をつけていました。

 心理学に「ペルソナ」(役割性格)という概念があります。

 「ペルソナ」はラテン語で「仮面」を意味します。

 人は誰もが、その時々の状況にあわせて自分の「役割」を果たそうと、

外に見せる自分の性格的な要素を変化させ現実に適応しようとしています。

 ミドル・マネジャー(中間管理職)は、「上司」ですが、役員が現れれば「部下」になります。

 部下の前ではふんぞりかえっていても、役員が来れば多くの人は腰を低くします。

 妻の前では「夫」らしく、子の前では「親」らしく振る舞おうとするでしょう。

 会社でこわもての威厳ある部長が、病にかかり病院へいくと医師を前にして、

まるで「子ども」のように甘えることがあります。

 「上司」・「部下」・「夫」・「親」など、外的な状況にフィットしようとみせる多様な自分が「ペルソナ」です。

 私たちは無意識に、仮面をつけ替えるように「ペルソナ」を上手に使いわけて生きています。

 会社で部長で、家に帰っても部長。

 妻や子を前にして、話を聴こうとせず、会社と同じ命令口調であれこれ指示ばかりする。

 これはひとつのペルソナ(部長という役割性格)が固着し、人格が硬直化した結果です。

 人間的なしなやかさを失い、心はそれを正そうと何かしら問題を引き起こします。

つまり、上司(リーダー)とは、人生における、ひとつの「ペルソナ」に過ぎないのです。

 私たちは人生のより多くの時間を会社で過ごすために、

「上司」というペルソナが固着しやすい環境を生きています。

人間的な「一貫性」や「ブレないコト」は評価されます。

 ですが、シャアが仮面をつけて、「真の目的」を別にもち”したたかに”生き抜いたように

ニ手三手先を考え、ひとつではなく二つ三つの「生きる目的」を準備し、

それを自覚し、そのどれをも肯定できる「しなやかな人間性」を形成していくことが、

私たちをタフに、そしてシャアのようにクールにしてくれます。

会社で成果をあげられず低い評価を受けても、親や夫としてダメだということではありません。

 まして人間として劣っているということではないのです。

 「役割」と「人間性」を切り離して考える。

そうした自己に対する多面的な評価軸をもつことが、心のタフさにつながり、

リーダーシップに力を与えてくれます。

台風一過に凜とたつ雑草たちは、硬いから強いのではなく、

右に左に”しなやかに”揺れるからこそ強いのです。

 『しなやかなリーダーシップ』を忘れたくないものです。